淋病(淋菌感染症)は、昔からよく聞く性感染症です。男性に多く、尿道の強い痛み、膿など、はっきりした症状が現れるため、発見・治療しやすいタイプの性感染症ですが、まだまだ減っておらず、むしろ若い人たちを中心に増加傾向にあります。最近は淋病で受診した患者さんからエイズウィルスが見つかることもあります。
淋病の診断には、尿道や膣の分泌物を調べ、淋菌の存在を確かめます。この菌はとても弱く、感染している粘膜から離れると数時間で感染性を失うといわれています。菌の核酸(DNA)を調べる方法なら、男性の場合は尿検査だけで済み、菌が死んだ状態でも確認できます。合併しやすい性器クラミジア感染症を検査するのにも有効です。
しかし、この方法では薬剤感受性試験ができません。最近は、抗生物質に耐性を持つ菌もいるため、菌を培養し、どのタイプの薬剤が菌の成育を阻害するかを試してみるのが薬剤感受性試験です。淋菌は温度差や乾燥に弱いため、私たち臨床検査技師は注意深く処理する必要があります。
このように状況に応じた検査方法があります。気になったときは、どうぞ受診してみてください。
(日本臨床衛生検査技師会 坂本徳隆)
2010 年 2 月 25 日 by admin
「STD」という言葉をご存じでしょうか。性行為を通じて感染する病気の総称です。発症に至っていない場合もあるため「STI」(性行為を通じての感染)と呼ばれることもあります。
日本性感染症学会は梅毒、淋病、性器クラミジア感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、エイズ、カンジダなど17種類を挙げています。
STDに共通する対策は、予防、早期発見、早期治療ということになります。早期発見のためには検査が大切です。性感染症の検査というと、怖いイメージを持つ方もいるでしょうが、血液検査、膣分泌物検査、尿検査の3種類が基本です。症状によっては、患部の分泌物を採取して調べる場合もあります。多くの場合は、保険で受けられます。
陰部の痛み、かゆみなど自覚症状があれば、検査を受けるようにしてください。また、自覚症状が現れにくい性感染症もいくつかあり、最も怖いのはHIV・エイズですが、行政の無料・匿名検査があるので、費用面の心配は要りません。
患者さんのプライバシーを守りつつ、性感染症への差別や偏見をなくしていくことが、早期の受診につながっていきます。
(日本臨床衛生検査技師会 坂本徳隆)
2010 年 2 月 22 日 by admin
世界エイズデー(12月1日)に合わせて、各地で啓発行事が行われています。臨床検査技師も、啓発行事での迅速検査に協力しています。わずか5ミリリットルの採血で検査が可能です。
エイズとは「後天性免疫不全症候群」の略で、免疫の働きが弱っていき、さまざまな感染症やがんなどを発症して死に至る病気。その原因となるウイルスがHIVです。昨年、国内では、外国籍の人も含め1日平均4人以上のHIV感染またはエイズ発症が報告されています。他の先進国とは異なり、まだ増加傾向です。
性行為を通じて感染することもあって、おぞましい病気というイメージが広まり、怖がる人も多いですが、治療の進歩により、HIV感染者のエイズの発症をかなり食い止められるようになってきました。検査で早期発見すれば、薬を飲みながら健康人と変わらぬ社会生活を送ることができます。しかし、検査の段階で既に発症していた「いきなりエイズ」のケースも増えています。
不安を抱えながら、検査に行かないでいると、配偶者や恋人にも感染してしまう恐れがあります。各地の保健所などで実施している無料・匿名のHIV検査をぜひ活用してください。
(日本臨床衛生検査技師会 坂本徳隆)
2010 年 2 月 22 日 by admin
血液型の抗原は400種類ほどあり、輸血の際に、すべての型が合う血液を用意することは困難です。このため、ABO式の血液型とRhのプラスマイナスについて合わせます。
これらの抗原が合わないと、血球の破壊などの重篤な副作用につながる可能性があるからです。それ以外の抗原の型は合っていないので、輸血によって抗体を産生することがあります。これを「不規則抗体」と言います。妊婦さんが出産する際に不規則抗体ができる場合もあります。
先週紹介したようなA型の人が持つ抗B抗体、B型の人が持つ抗A抗体などは、生まれつきある「自然抗体」。これに対し、後天的にできるのが不規則抗体です。
輸血する前に、事前にABO型、Rh式の検査とともに、不規則抗体の有無を調べる検査をします。そして不規則抗体が見つかれば、その患者さんの血液とドナーの血液を反応させる交差適合試験を行います。
試験で血球同士が凝集を起こさなかった場合、輸血OKとなるわけです。 最近では、コンピュータ上での交差適合試験(コンピューター・クロスマッチ)も普及し、検査の迅速化に役立っています。
(日本臨床衛生検査技師会・小栗孝志)
2010 年 2 月 22 日 by admin
一口に血液型と言っても血液型を決定する抗原は400種類あまりあります。
その中でも皆さんにもなじみが深いのは、ABO式血液型。A型、B型、O型、AB型があり日本人の比率は4対2対3対1です。
A型はA抗原、B型はB抗原、AB型はA抗原とB抗原を持ちO型はどちらも持たない0(ゼロ)からO型になったと言われています。
A型の血清の中には「B抗体」があり、もしもB型の血液を輸血すると、赤血球を壊してしまう重篤な副作用が起こることがあります。同様に、B型の人はA抗体、O型の人はAとB抗体を持ち、AB型の人は抗体を持ちません。
血液型は抗原(赤血球)と抗体(血清)の両方から調べます。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんの血液型は確定とはいえません。生後間もない赤ちゃんは母体の抗体が移行していたり、血球を固める成分が少ないため、検査が不正確になる場合があるのです。
抗体は生後6カ月~1歳ほどで、検査できるレベルまで上昇します。子どもの血液型を知るには、1歳をすぎてから、採血を伴う検査の折に調べてもらうことをお勧めします。
(日本臨床衛生検査技師会・小栗孝志)
2010 年 2 月 22 日 by admin
おなかの赤ちゃんが順調に大きくなり、安定期である5カ月ごろになると、クラミジア抗原検査、膣分泌物培養が行われます。
クラミジア抗原が陽性なら、卵膜に感染した場合に流産、早産の危険性があるので治療が必要です。また産まれる際に赤ちゃんに感染(産道感染)すると、赤ちゃんに結膜炎、クラミジア肺炎が起こる可能性があります。
膣分泌培養ではカンジダ膣炎や細菌性膣炎かどうかなどがわかり、こちらも治療をします。
血液検査では、貧血の検査に加えて空腹時(食後二時間以上の状態)の血糖値も調べていきます。尿検査で尿糖が数回続けて出ている人や、糖尿病と思われる症状がある人は、もう少し早い時期に検査しているかもしれません。
空腹時血糖値が高い場合は、75グラム糖負荷テストを行います。
まず空腹時の血糖値を測定し、次にブドウ糖の入った甘いサイダーのような液体を飲んでもらい、そこから1時間後、2時間後の血糖値をそれぞれ測定し、空腹時、1時間値、2時間値の二つ以上が規定値を超えると「妊娠糖尿病」と判断します。
こうした耐糖能異常は、ほとんどの例では、出産後に改善されます。
(日本臨床衛生検査技師会・小栗孝志)
2009 年 12 月 16 日 by admin
赤ちゃんが少し大きくなる妊娠12週ごろになると、妊婦さんの血液からさまざまなことを調べていきます。
まず貧血の有無や血小板数。妊娠すると生理的に血液が薄くなります。重い貧血状態になると、おなかの赤ちゃんに酸素がいきわたらなくなってしまいます。血小板数も少なくなると、出血しやすくなります。
感染症検査も重要です。エイズにつながるHIV、梅毒などの性病や、C型肝炎ウイルス抗体、B型肝炎ウイルス抗原、成人T細胞白血病ウイルス抗体などについて調べます。万一、陽性だと赤ちゃんに感染する恐れがあり、対応が必要になります。
また、安全に出産を行うためには、妊娠中から出産時の出血に備えて血液を確保する必要があり、それに備えて血液型や不規則抗体(輸血時に通常と違う反応を引き起こす抗体)の有無を調べておきます。
たとえば、Rhマイナスの血液型のお母さんがRhプラスの赤ちゃんを妊娠した場合、免疫反応によって溶血性貧血や黄疸が引き起こされることがあります。次の出産に影響が出る場合もあります。血液型や不規則抗体を知ることは、妊娠のさまざまなトラブルを防ぐうえで重要です。
(日本臨床衛生検査技師会 小栗孝志)
2009 年 12 月 16 日 by admin
妊娠が判明したお母さんには、さまざまな検査が待っています。血液検査、尿検査、超音波検査などがあり、採血などは少しチクッとして痛いですが、そこからさまざまな情報を得ることができます。
妊娠初期の血液検査では、風疹抗体、トキソプラズマ抗体の有無などを調べます。もしお母さんが妊娠前半期に初めて風疹、トキソプラズマ症にかかると、赤ちゃんに重大な障害(風疹は心臓奇形・聴覚障害など、トキソプラズマ症は脳炎・水頭症など)を引き起こす恐れがあるからです。
尿検査では、尿中に蛋白、糖、ケトン体、血液などが混じっていないかを通院のたびに調べていきます。尿を試験紙につけて色の変化を読み取り、さらに尿を遠心器にかけて下に沈んだ成分(尿沈渣といいます)を顕微鏡で調べます。
一回きりのプラスは生理的な要因の場合もありますが、検査のたびに数回続けてプラスに出ると、蛋白は妊娠中毒症、糖は糖尿病あるいは妊娠糖尿病などの可能性があります。またケトン体は妊娠悪阻(重症つわり)、潜血は切迫流産のときにプラスとなることがあります。
次回は妊娠12週ごろの血液検査についてお話しします。
(日本臨床衛生検査技師会 小栗孝志)
2009 年 12 月 16 日 by admin
獣肉を生で食べるのも、寄生虫に感染する恐れがあります。
牛の肉、横隔膜などに寄生する「無鉤条虫」の幼虫は、大豆ほどの大きさですが、人の体内に入ると、小腸内で全長3~7メートルの成虫になります。腹部不快感、腹痛、下痢などの症状が出ることもあります。
豚の肉、横隔膜、肝臓などに寄生する「有鉤条虫」の幼虫も大豆大で、人の小腸内で2~5メートルにも成長します。この虫は、卵を通じて寄生することもあり、腸内でふ化した幼虫が全身に運ばれ、皮下、筋肉、脳、脊髄などに袋を作ると重篤な症状を起こします。
豚や羊の肉には「トキソプラズマ」という原虫の塊ができていることがあり、生肉や生ハムなどを通して体内に入ります。猫の便も感染原因となります。無症状のことが多いですが、妊婦の胎盤から胎児に移行すると、水頭症などを引き起こす先天性トキソプラズマ症を発症することが、まれにあります。
寄生虫検査には、便を調べるもの、肛門に特殊なテープを張って調べるもの、血液の免疫反応を調べるものなどがありますが、食生活の中で感染予防を心掛けるのが何より大切です。
(日本臨床衛生検査技師会 山本徳栄)
2009 年 12 月 8 日 by admin
今回は、淡水魚を生で食べることによって感染する寄生虫について紹介します。
まず、サクラマス、カラフトマスなどサケ属の魚の筋肉には「日本海裂頭条虫」の幼虫(体長1、2センチ)が寄生していることがあります。これを生で食べると、小腸内で成虫になり、全長が5~10メートルにも達します。症状は、下痢、腹痛、腹部膨満感などで、個人差があります。
アユ、ウグイ、シラウオなどの魚には、体長0.15ミリほどの「横川吸虫」の幼虫が寄生していることがあります。成虫でも1.5ミリと小型で、少数の寄生なら症状はありませんが、多数寄生すると腹痛、下痢などを起こします。
コイやフナなど寄生する「肝吸虫」の幼虫は、成虫の体長が1、2センチ程度。肝臓内の胆管に寄生するために、肝障害などを起こします。これらは検便で診断します。
ドジョウ、ライギョ、ヤマメ、アマゴなどに寄生するのは「顎口虫」の幼虫(約3ミリ)。人間の体内では、幼虫のままで皮膚や皮下組織を移動し、炎症を起こします。
これらの感染を予防するには、生や不完全な加熱で魚を食べないことが大切です。
(日本臨床衛生検査技師会 山本徳栄)
2009 年 12 月 8 日 by admin