現在、血液などの検査の大半は、自動分析装置によって行われています。このような装置は常に正しい結果を出すと思われがちですが、実際には測定時の環境や条件によって変わってしまうことがあり、チェックが必要です。
このときに使われる手法が「精度管理」で、内部精度管理と外部精度管理の二種類があります。
内部精度管理は、一般的に毎日同じ試料を測定することにより、結果が他の日と大きく変わっていないかを調べます。外部精度管理は、同じ試料を他の病院や検査施設に送り、一緒に測定することで、異なる結果が出ていないかを調べます。
これらの測定結果は、必ず同じ値になるわけではないので、ある程度の誤差範囲を決めておき、そこから外れているかどうかを調べます。もし、外れていたら、機械、試薬、測定方法などのどこに問題があるのかの原因究明を行い、速やかに改善処置を講じます。
このような精度管理によって、臨床検査データの正確性は保証されています。
(日本臨床衛生検査技師会・真鍋史朗)
2010 年 4 月 21 日 by admin
近年、微量分析の技術が進歩してきました。これに伴い、投与した薬剤が体内にどれぐらい残っているかを調べ、治療効果の判定や副作用の判断に役立てられるようになりました。これを「TDM」(治療薬物モニタリング )」といいます。
同じ用量の薬剤を投与したとしても、患者さんにより効果が違ってくることがあります。それぞれの薬物代謝酵素の働きや基礎疾患の有無、年齢、性別、体型などによって、違いが出てくるためです。このモニタリングの結果や臨床の所見から、薬の用量・用法を調整していきます。
TDMを行うには、信頼できる測定方法が確立されていることが不可欠で、血中濃度と薬効、副作用の発現の関連が明らかになっている必要があります。現在は、免疫治療剤、抗てんかん薬、心不全治療薬、不整脈治療薬などで行われています。
精神科でよく使われる「気分安定薬」は、血中濃度が高いと副作用が現れやすいため、モニタリングをしながら投与量を決める必要があります。また、薬の種類によっては、血中濃度が急激に上がるものがあります。薬を飲んだり飲まなかったりしている患者さんは、そのことをきちんと医師に伝えることが正しい診断につながります。
(日本臨床衛生検査技師会 真鍋史朗)
2010 年 4 月 21 日 by admin
体内で炎症を起こす疾患には、感染症、がん、心筋梗塞などさまざまな種類があります。炎症の有無を調べる検査が「CRP(C反応性タンパク)」です。
CRPは、タンパク質の一種で、正常な血液の中にはごく微量しかみられませんが、体内で炎症が起きると、その量が増えます。
最初は、肺炎患者さんの血清中にあった肺炎球菌のC多糖体という成分に反応するタンパク質として発見され、CRPと命名されました。その後、炎症性の疾患を持つ患者さんの血液内で急増することがわかり、広く臨床検査に使われるようになりました。
CRPが高値だと炎症があると判断し、白血球数、末梢血液像(白血球の五種類の細胞のバランスなどを調べる)と組み合わせて総合的に判断していきます。同様に、炎症の有無を調べる検査として、赤血球の沈降速度を調べる「血沈」がありますが、CRPの方が血沈より数値の変化が早く現れ、早く消失するため、血沈は慢性炎症の指標として使われています。
近年、CRPが高い人にメタボリック症候群や高コレステロール血症が重なると、心臓病や脳卒中になりやすいことが明らかになっています。
(日本臨床衛生検査技師会 真鍋史朗)
2010 年 4 月 21 日 by admin
私たちが音や言葉を認識するのは、大脳の「側頭葉聴野」という部分の働きです。音の刺激は、外耳から中耳、内耳を通って、脳に伝わっていきます。
聴覚障害には、前半の「外耳→中耳」の音を伝える部分にトラブルがある「伝音難聴」と、「内耳→脳」の音を感じる部分で起こる「感音難聴」、その両者が組み合わさった「混合性難聴」の三つのタイプがあります。
聞こえにくさを訴える患者さんには、検査をして難聴の程度やタイプを調べます。これを「純音聴力検査」と言います。最も基本的で重要な検査です。125~8000ヘルツまでのいろいろな周波数の音がいろいろな強さで出ますので、どこまで聞き取れるかを調べるわけです。
太鼓のようなドンドンと低い音、スズメの声のようなチュンチュン、鈴の音のような高いシャンシャンなどを、耳にヘッドホンを当て、聞こえている間にスイッチを押してもらいます。
この検査には、伝音難聴を調べる「気導聴力検査」と、内耳以降の感音難聴を調べる「骨導聴力検査」の二種類があり、骨導検査は、耳たぶの後ろにレシーバーを当て、耳の骨に直接振動を加えて調べます。
(日本臨床衛生検査技師会 及川雅寛)
2010 年 4 月 21 日 by admin
患者さんから採取した微生物の種類を確定するため行うのが「培養」です。
細菌は、寒天や液体の培地に菌が好む栄養を豊富に含ませ、菌を増やします。菌の集落の形状や色、菌の状態などの経過観察も重要です。食中毒の原因となるブドウ球菌は、球形の菌がブドウの房のようになるので、この名が付きました。ウイルスは人工的な培地では増殖しないので、動物や卵を使って増やします。
微生物の種類が分かれば、炎症を抑える薬を処方できます。その薬剤の効果を体外で実験することもあります。培地に病原菌を均等に塗り、数種類の抗生物質を間隔をあけて置きます。薬の周囲の菌が発育が悪いほど、有効な薬であるわけです。これを薬剤感受性試験といいます。
感受性が証明された菌に対し同じ抗生物質を長く使っていると、細菌が抵抗力を付けることがあります。これを薬剤耐性といいます。20年ほど前、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は院内感染の原因として大きな問題になりました。
現在では、各医療機関に院内感染予防の委員会の設置が義務付けられ、対策を講じていますが、細菌の側も変化を続けています。
(日本臨床衛生検査技師会 百田浩志)
2010 年 4 月 20 日 by admin
病気の原因となる微生物について紹介します。
微生物の研究には顕微鏡が不可欠です。16世紀末に顕微鏡が発明され、17世紀の中盤に微生物が発見されました。ペストやコレラ、腐敗、発酵などへの微生物のかかわりも、次々に解き明かされました。
病原微生物は、菌体が小さいものから順に「ウイルス」「細菌」「真菌」に大別されます。ウイルスは、流行の新型インフルエンザなどで有名です。細菌は食中毒や結核などの原因となります。真菌は、一般的にカビと呼ばれ水虫などの原因となります。
検査には、微生物の採取が必要です。当然ながら炎症が強い場所に多く存在しますので、その部位をぬぐい取ったり、注射針などで吸引したり、そこから排出されるものを調べます。たとえば肺炎であれば痰、腸炎であれば便、膀胱炎であれば尿が検体になります。
採取した検体は微生物が際立つように染色し、顕微鏡で観察します。微生物の形状や染色の具合も貴重な情報です。ウイルスは普通の顕微鏡では見えませんので、検体を反応しやすいように処理して免疫学的方法で確認することもあります。
(日本臨床衛生検査技師会 百田浩志)
2010 年 4 月 20 日 by admin
脳波とは、脳の電気的活動を記録するもので「マイクロボルト」「ヘルツ」といった単位が使われます。マイクロボルトとは、波の振幅を示すもの。ヘルツは特定の周期の波が1秒間に現れる回数(周波数)のことです。これらを判読することによって、患者さんの脳の機能が客観的にわかります。
はっきりと目が覚めた状態のときは、周波数の大きいベータ波(14~30ヘルツ)、目を閉じてリラックスしているときはゆったりしたアルファ波(8~13ヘルツ)、軽い眠りのときは、シータ波(4~7ヘルツ)、深い眠りのデルタ波(1~3ヘルツ)と、特徴的なパターンを示すので、波形から眠りの深さを知ることもできます。
脳波検査は、脳死判定にも使われます。「脳死は人の死」と定義し、家族の同意で子どもの臓器提供を可能にした改正臓器移植法が昨年7月、成立しました。
脳死の判定基準には▽深い昏睡▽自発呼吸の喪失▽瞳孔の固定▽脳幹反射の消失▽平たん脳波の5つの確認事項があります。30分以上、脳波が平たんなままで、他の項目を満たした場合に、6時間の経過をみて変化がないことを確認し「脳死」と判定します。
(日本臨床衛生検査技師会 谷口薫)
2010 年 2 月 25 日 by admin
私たちは、お米や肉や魚などを食べ、それを体内でブドウ糖やアミノ酸に変えて命を支えています。この機能を「代謝」と言います。
しかし、まれに先天性の代謝異常をかかえて生まれてくる赤ちゃんがいます。見かけは元気でも、放っておくと健康を害したり、知的障害につながる場合もあります。このため、日本では1977年から先天性代謝異常症などを早期発見・治療するための「新生児マス・スクリーニング」を実施しています。
この検査は、生後4~6日の赤ちゃんを対象に行います。かかとから少量の血液を濾紙で採取し、検査機関に送って調べます。
アミノ酸代謝疾患のフェニールケトン尿症、ホモシスチン尿症、メープルシロップ尿症、糖質の代謝異常であるガラクトース血症、内分泌疾患では、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症について調べます。
これらの検査は、保護者の方の希望により実施します。母子健康手帳別冊にある「先天性代謝異常検査依頼書」に必要事項を記入して、医療機関に提出してください。費用は行政が負担しますが、採血料は自己負担の場合が多く、おおむね3千~4千円程度です。
(日本臨床衛生検査技師会 町田幸雄)
2010 年 2 月 25 日 by admin
手のしびれは、さまざな病気に現れる症状で、原因としては▶神経の圧迫▶脊髄の障害▶糖尿病-などがあります。時に、脳の疾患が手のしびれにつながる場合もあり、原因を追及することはとても大切です。今回は、中高年の女性に多くみられる「手根管症候群」についてお話します。
手根管とは正中神経が入っているトンネルで、手首の中央を走っています。それが何らかの原因により手首の部分で圧迫されると、親指から薬指にかけてのしびれを感じます。仕事などで手首の使いすぎた場合のほか、糖尿病、肥満、痛風、甲状腺機能低下症、リウマチなどが原因となることもあります。ひどくなると、親指の付け根のふくらみがやせてきて、物をつまみにくくなります。
この病気は、筋電図検査ですぐ診断できます。筋電図検査は、手首に電気的な刺激を与えて、筋線維が興奮する際に発生する活動電位を記録するもので、その速度が遅ければ、手根管症候群です。この検査により、全体的なしびれ感だけではなく、それぞれの指にしびれを与える神経根の障害や知覚異常なども診断できます。しっかりと検査することが大切です。
(日本臨床衛生検査技師会 町田幸雄)
2010 年 2 月 25 日 by admin
ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)という名前を聞いたことがありますか。
HPVには100種類以上の型があるとされ、このうち6型、11型などは尖圭コンジローマを引き起こすことで知られています。尖圭コンジローマとは、陰部などにいぼのようなものができる性感染症で、治療法は、薬物のほか外科手術があります。
近年、HPVの中に、子宮頸がんを引き起こす型があることが分かってきました。これらはハイリスク型のHPVと呼ばれ、特に16型、18型が20代、30代の患者さんから多く検出されます。
ハイリスクのHPVに感染したからといって、すべてががんになるわけではなく、多くの場合は一過性の感染でウイルスは体外へ排除されます。まれに、感染が長期にわたって続くと、そのごく一部が「前がん病変」の状態になります。約10年続くので、この状態で発見できれば、治療成績はとても良好です。細胞診でこの状態を検出することができるので、ぜひ子宮がん検診を受けてください。
子宮頸がん予防のために、HPVに対するワクチンも実用化され始めており、今後の予防効果に期待したいところです。
(日本臨床衛生検査技師会・坂本徳隆)
2010 年 2 月 25 日 by admin