検査のはなし

 インフルエンザが流行しています。正しい知識を持ち、予防や周囲への感染拡大の防止に努めていただきたいと思います。

 

 インフルエンザは発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などを伴う感染症で、多くは1週間ほどで自然治癒しますが、乳幼児や高齢者などは、時に命にかかわる重篤な状態になることもあります。

 

 早期治療に役立つのが「迅速検査」です。外来でA型とB型のウイルスを同時に検査できるキットが普及してきて、かなり初期でも診断できるようになりました。綿棒で鼻やのどの粘膜の液を採取して調べます。最近の抗インフルエンザウイルス薬(リレンザ、タミフル)は、発症して2日以内なら有効とされており、医師が副作用などに注意しながら処方します。

 

 インフルエンザは、症状が出てから3~7日間はウイルスを排出すると言われています。熱が下がってすぐに人込みに出掛けたりすると、他の人にうつす恐れが高まります。十分な配慮が必要です。また、予防のためのワクチンは、摂取してもかかる場合があります。決して万能ではなく、かかった場合に重症化を防ぐための備えと考えてください。

 

(日本臨床衛生検査技師会理事 田中久晴)


2009 年 1 月 28 日 by admin

 

 先週、動脈硬化を簡単に検査できる「ABI(足首と腕の血圧比)」と「PWV」(脈波伝播速度)」が多くの病院に普及していることを紹介しました。今回は、その仕組みを解説します。

 ABIは、動脈の閉塞状況を調べる検査です。ベッドに横になった状態で足首と腕の血圧を測定すると、通常は足首の血圧が腕に比べてやや高めに計測されます。しかし動脈に狭窄や閉塞がある場合、足首の血圧は低下します。足首と腕の血圧比が0.9以下の場合、動脈の狭窄や閉塞が疑われます。

 一方、PWVは動脈の弾力性の検査です。柔らかいホースと鉄でできた水道管を想像してください。同じ圧力で水を流したとすると、ホースは柔軟性があって水の勢いが吸収されますが、鉄の水道管では勢いよく水が飛び出します。同様に、血管の壁も柔らければ血液は適度に流れますし、硬い血管では流れる速さが増します。心臓から出た血液が足首に届くまでの時間を計測することによって診断の手助けをするのがPWVです。

 血液の流れが秒速13.5メートルを超えると、動脈硬化症が疑われます。足首と腕の二カ所を同時に測定する機器ができたことで、検査は飛躍的に進歩しました。

(日本臨床衛生検査技師会 長迫哲朗)


2009 年 1 月 28 日 by admin

 

 血液が流れる動脈の壁は、弾力があり柔軟性があります。血管壁の老化に伴い、この弾力性、柔軟性が失われた病気を動脈硬化症といいます。

 心臓の動脈が硬化すれば心筋梗塞や狭心症に、脳動脈なら脳血管障害につながり、生命にかかわる病気です。高脂血症が原因となって、動脈硬化症につながっていくことが多く、喫煙、飲酒、塩分の濃い食事、ストレスなどによって促進されます。

 この動脈硬化症をいち早く知るために全国で広く行われている検査が「ABI(足首と腕の血圧比)」と「PWV(脈派伝播速度)」です。

 

 難しそうな言葉ですが、内容はいたって簡単です。ベッドに横になって両腕と両足首の4カ所に血圧測定用のカフを巻き、心電図の電極を腕に、心音図のマイクロフォンを胸に装着。足首と腕の血圧を同時に2回測定することにより数値を測定します。検査時間は510分程度です。痛みもありません。検査の詳しい内容は次回に説明しますが、こうした簡便な検査で自分の血管を状態が分かれば、生活習慣を見直す動機づけにもなります。血圧や食生活などに不安のある人は、ぜひ調べてみてください。

 


2009 年 1 月 11 日 by admin

 

 明治時代の疫病の流行は検査技術者の需要を高め、それぞれの施設が個々に技術者を養成する体制が以後、長く続きました。旧陸軍・海軍の病院でも、病理試験室で勤務する人材が養成されていました。

 

 終戦後は、軍で養成された技術者が、病院の臨床検査室、衛生研究所、保健所などで実務をする傍ら、養成も担当しました。1949(昭和24)年、東京の国立東京療養所が、作業病棟の結核回復者を臨床検査室に実習生として通わせたことから、東京清瀬医学専門学校へと発展。2年後には、結核回復者の総合的な職業補導所に「衛生試験科」が発足しました。

 

 これらは、結核患者の社会復帰のための取り組みでしたが、1952(昭和27)年に東京文化短大に「医学技術研究室」が設けられたのを皮切りに、技術者養成の教育が固まっていきました。


 当会の前身である日本衛生検査技術者会が設立されたのも、この年です。やがて衛生検査技師法臨床検査技師法が設けられて2つの国家資格が生まれ、現在の形につながっていったのです。


 医学の発展とともに、検査の可能性・重要性が高まっていったことがおわかりいただけると思います。

 


2009 年 1 月 11 日 by admin

 

 明治新政府は、江戸時代の蘭学一辺倒の姿勢を改め、広く西洋医学の受け入れを図りました。当時の世界に冠たるドイツ医学を採用、医学校、大学の拡充をめざしました。

 臨床検査の分野でも、多くの新しい知識が入ってきました。1880(明治13)年6月に学術誌の「中外医事新報」に掲載された「血球ノ説」は、日本の血球数算定法の草分けと言えます。その2年後に出版された医学者・足立寛の講述録「顕微鏡検査指針」には、病理組織を検査するための切片の作り方、染色の手法が記されています。

 明治期に、臨床検査技術者が注目されるようになった背景には、疫病の大流行が挙げられます。

 1879年にはコレラの大流行で、死者が10万人を超えました。’93年には、天然痘により約1万1千人、赤痢により約4万1千人が亡くなり、翌’94年にも赤痢で3万8千人余りの死者が出ました。発疹チフスやペストも流行しました。

 新しい教育を受けた医師、看護師らが、避病院(明治時代の伝染病専門病院)などで治療に奔走しました。そして、医師以外にも細菌検査をできる技術者の需要が高まり、現在の臨床検査技師の原形ができていったのです。


2008 年 12 月 20 日 by admin

古代ギリシャに端を発した臨床検査は、18世紀に入って飛躍的な発展を遂げます。 尿に関していえば、尿蛋白の存在をイタリアのコツノが明らかにしました。さらに、尿中の尿素の発見、尿糖の検出、痛風患者からの尿酸測定と続きました。いずれも1770年前後から10年ほどの間に西欧で起きた進歩です。

しかし、鎖国状態だった日本は、大きな遅れを取りました。

臨床検査について日本で初めて出された専門書は、1815(文化12)年の「因液發備(いんえきはっぴ)」。蘭方医・吉雄耕牛の遺筆として上梓されました。ここでも西欧の新しい動きは伝えられておらず、体液(尿、汗、だ液など)を外見的に見る検査法など、中世の考え方が中心になっています。

50年もの遅れを取りつつも、西洋医学は少しずつ日本に入っていきました。この時代の書物には、西欧での顕微鏡の医学への応用や血球、精子についての記述もみられます。1859(安政6)年に思想家・佐久間象山が知人にあてた手紙によれば、この時代に少数の医師が検尿を行っていたようです。

日本における臨床検査の発展は、明治期を待つことになります。


2008 年 12 月 19 日 by admin

医学の検査は、いつごろから行われていたか、ご存じでしょうか。

呪術や魔術が主体だった古代の医療を廃して、病状の観察、触診、聴診によって病気を分類するようになったのは「医学の父」ヒポクラテスの功績です。

紀元前四世紀のギリシャで活躍したヒポクラテス学派は、尿の沈澱物を四体液の廃棄物として観察していました。四体液とは、血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁で、このバランスによって病気が引き起こされると、当時は考えられていたのです。これが臨床検査の源流と考えられています。

ヒポクラテス以後の医学は、病状の観察、触診、聴診によって病気を分類して、予後診断を重視して、病気と社会環境についても考えをめぐらすようになりました。古代ローマ時代には、脈診と尿検査法が確立され、中世以後の医師たちは尿瓶を光にかざしてその色や沈澱物の状態を調べ、一覧表にしたがって病名を診断したと言われています。

哲学的な「体液病理学」は、17世紀以降すたれ、臓器を中心とした病理学が発展していきますが、現代でも心の病気などは「体のバランス」で考える方が理解しやすい場合もあるようです。


2008 年 12 月 19 日 by admin

 

 健康志向の高まりから、健康補助食品や機能水が人気を集めています。

 

 厚生労働省が「保健機能食品」の制度を設けて、科学的根拠や安全性を高める努力をしていますが、商品によるばらつきは大きく、ダイエット食品で重篤な肝機能障害を起こし死亡に至ったといった健康被害も報告されています。

 

また、病気の治療で「まれに重篤な副作用を起こす」と説明のある薬を処方されながら、病院での検査がほとんどなかったりすると、不安になる人も多いでしょう。

 

特に病気ではなくても、自分の健康状態を知りたい人のために、市販の検査薬が広がっています。郵送で各種検査が利用できるのです。

 

栄養状態、微量栄養素の状態を確かめることでサプリメントや健康食品の有効性を点検したり、服用中の薬剤の副作用を確かめたり、妊娠や性感染症のチェックなど、幅広い用途に利用できます。健康には気をつけたいが忙しくて病院に行く暇がない、という人にお勧めです。

もちろん、異常値が出たらただちに病院に行かねばなりません。健康補助食品などを使うことよりも、自分の体の状態を知ることが健康管理の基本です。


2008 年 12 月 19 日 by admin

 病気を治す「治療医学」に対し、病気にならないようにするのが「予防医学」です。ここでも検査データが主役になります。

 食生活の改善、適度な運動、ストレス解消などの健康増進と予防接種、生活習慣病対策などの疾病予防を一次予防といい、疾病の早期発見、早期措置により重症化を防ぐものを二次予防といいます。先週お話した健診は一次予防、検診は二次予防ということです。

 40歳から74歳を対象として今年から始まった特定健診・保健指導(いわゆるメタボ健診)も一次予防です。しかし、対象年齢を考えると、健康を証明するというより疾病の早期発見という二次予防に近いものになりそうです。これだと、検査結果が悪ければ検査嫌いになるかもしれません。

 たとえば成人の記念に、というように若いときから自分の健康なデータを管理し、少しでもデータが悪くなったら医療機関で受診すれば健康寿命が伸びるはずです。

 健康検査はいつでもどこでもできなければなりません。医療機関、薬局をはじめ、駅ナカ、スーパー、コンビニなどで精度の高い市販検査薬を用いて自分の健康を守る。そんな時代がやってきました。


2008 年 11 月 21 日 by admin

 医療機関での診断や治療に臨床検査データが必要不可欠なのは言うまでもありませんが、健診や検診においても臨床検査は重要です。

 ところで「健診」と「検診」の違いをご存知でしょうか? 読み方は同じですが、健診は健康診断・健康診査のことを意味し、健康であるかどうかを調べるものです。それに対し、検診は特定の疾患を早期に発見し、早期に治療することを目的とした検査診断・検査診察を指します。

 少し古いデータですが、2002年度の群馬県での基本健診とがん検診の受診率に興味深い事実があります。

 この年の基本健診の受診率は63.4%だったのですが、これに対しがん検診は、胃がんが17.5%、大腸がん19.9%、子宮がん20.1%、乳がん21.8%、最も多い肺がんでも31.1%にとどまりました。このことから、健康診断は気軽に受けるが、たとえ早期でも「がん」が見つかることは尻込みする受診者の行動が垣間見えます。

 もちろん、このような理由だけが受診率に影響を及ぼしている訳ではなく、受診意識の醸成や機会の確保も大切です。ことし四月から実施が義務付けられた特定健診・保健指導の成否も、今後の受診率を左右しそうです。


2008 年 11 月 14 日 by admin


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